味見は口の中全体で。
スキー場のあるホテルで働いていた若い頃の話。
調理場の親方が私を呼んで言う。
「ちょっと、その汁の味を見てみろ。」
ええっ、なんで私に?
と訳の判らないまま、他の人がするように、
小皿に汁をすくって、
唇を尖らせて、恐る恐る汁をすすってみた。
そのとたん、
木の柄杓で、コツンと頭を叩かれた。
「そんな味見の仕方があるか!」
イタタタ、、急にそんなこと言われたって、、、、。
「いいか、味見というのは、
口の中全体でするのだ。
そんな風に、口をつぼめて、
少しばかり汁をすすったところで、味が判るか!」
と言って、親方は見本を見せてくれる。
「味見には、ある程度の量が必要。
そして、口を縦にするのではなく、
横に大きく広げるようにして、
舌全体に、汁を転がすのだ。」
なるほど、親方は、
口を尖らせることなく汁を口に含み、
唇を横に引っ張ったり、戻したりして、
味を見ている。
口全体で味を感じているんだね。
私もまねしてやってみたら、
「そうだそうだ、
味というのはそうやってみるんだ。」
と褒めてくれる。
荒っぽいけれど、いい親方だった。
あとで、他のスタッフに聞いてみたら、
みんな親方の木の柄杓の洗礼を受けていたようで、、、。
食べ物の味見をする時には、
どうしてもおっかなびっくりで、
舌の先に少し載せただけで確かめようとするが、
実は、それだけでは、味はよくわからないのだ。
舌全体で味わう、
これは、少し訓練をしないと出来ないかもしれない。
でも、そういう食べ方をすると、
もっと、食べ物を深く味わえるのかもしれない。
そうして、
日本酒の味見の時も、
同じようなことを教えてもらった。
舌先でなく、
口を横に平らにして、口の中全体で味わうと、
いろいろな味が見えてくるという。
私も、
時々は、
店で扱っている酒が悪くなっていないか、
「仕方がなく」味見をするのだが、
これが、
これが、
なかなか舌全体で味わえないのだ。
だから、
何度も、、
何度も、、
味見をやり直さなければならない。
つらいんだなあ、それが。
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コメント
こんばんは。
なっとくの話ですね。
さて、たいしたことではないのですが、最後の行《つらいだなあ、それが。》は《つらいんだなあ、それが。》ではないかと思いました。
ではまた。
投稿: 所沢太郎 | 2011年2月25日 (金) 23時05分
所沢太郎 さん、こんにちは。
あっ、ご指摘をありがとうございます。
すぐに直させていただきます。
文章の味見(吟味)もしっかりやらなくてはいけませんね。
投稿: かんだた | 2011年2月26日 (土) 06時50分