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2009年11月 2日 (月)

あるそば屋の話 その1

もう二十年も前のこと。
ある山の中に、一件のそば屋が開店したと聞いた。
当時としては珍しい自家製粉の粉を使っているという。

場所を聞けば、通りから外れたわかりにくいところ。
たまたま知り合いの地元の人に聞けば、
「ああ、高いだけのそば屋だよ、
 天ぷらもないし。」
とのこと。

それでも興味があったので、探して行ってみた。
確かにわかりにくいところ。
店も、普通の山荘風で、看板がなければそば屋と気がつかない。
靴を脱いで上がれば、床暖房のフローリングに、
重厚な飛騨家具の椅子とテーブル。
流れる音楽はクラッシック。
なんだか、そば屋というよりも、
しゃれたフランス料理でも出てくる雰囲気。

十歳以下の子供はお断り、
店内はもちろん禁煙。
そばは「せいろ」の一種類のみ。
その他には、「そばがき」と「ぜんざい」の
追加メニューがあるだけだ。

寡黙な旦那さんが、一人で切り盛りをしている。
そばを頼むと最初に出てくる野菜の煮物。
それを食べただけで、関西系の方なのだということがわかる。

そばは、とても丁寧に打たれたものだった。
自家製粉のためか、ざらつきが多いが風味は強い。
汁も薄口を使っていて、塩味の角が立っているが、
それが、逆にこのそばの味を引き立てるようだった。

そうして、最後に出てくるのが、
とろりとした、濃いそば湯。
いまでこそ、そういう店も増えているが、
当時としては珍しかった。

なるほど、面白いそば屋が出来たものだ、
と、当時の私は思ったものだ。
でも、こんな山の中で、
このようなそばを出して、
果たして、商売として成り立つのだろうか?

ここで扱っている新潟の酒がおいしかったので、
その近くを通りがかるときには、
この店に寄るようになった。

行ってみると、たいてい、他に客はおらず、
元々無愛想なご主人は、相も変わらず無表情で、
備前焼の徳利に酒を入れて、そばを作ってくれるのだ。

何年か経った、ある冬の日、
雪の降り続く昼過ぎにこの店を訪ねると、
朝に一度雪かきをしたらしい駐車場には、
もう十センチ以上の雪が積もっていた。
他の車が入った跡はない。
店内はもちろん、他に客はいない。
降り積もる雪を眺めながら、
一人ゆっくりと酒を飲みながらそばを楽しんだ。
(どうやって帰ったのだろう、車で行ったのに、、、、)
私の帰った閉店時間までに、新しい車のわだちは出来なかった。

この雰囲気でそばを食べられるのは有り難いが、
大変だろうなあ。
商売としては。
私はそう思ってしまった。

ところが、、、
ところが、、、
世の中というものはわからないもの。
やっぱり、私のように、
ちょっと寄り道しても来てみたいという人たちもいたのだね。
そうして、、、

という話は、また次回。

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